カメの甲羅は武器にもなる

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カメを食い殺す外来哺乳類

 

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両前肢と右後肢を食われたニホンイシガメの死体

 

淡水域に生息するカメ類を減少させる要因として、主に生息地の劣化・消失や商業目的の乱獲、ときにアカミミガメなどの外来カメ類との競合が取り上げられます。しかし、これらの要因と同等に重大な問題としてカメ類の研究者の間では、人間が持ち込んだ捕食者、特に哺乳類による影響が注目されています。

 

この外来哺乳類による問題は、その実態を報告した事例が少なく、影響を受けるカメ類の種数が少ないこともあり、生息地の劣化や乱獲等の問題に比べると、一般にはあまり大きな問題としては取り上げられていません。

 

今回はこの外来哺乳類によるカメ類への影響として、世界各地で特に問題となっている哺乳類をいくつか紹介します。

 

主にカメ類への捕食が問題視されている哺乳類には、オーストラリアに定着したアカギツネVulpes vulpesイノシシSus scrofa、日本に定着したアライグマProcyon lotorがあげられます。

 

これらの外来哺乳類はカメ類が産卵した卵の90%以上を食い潰したり、今まで天敵のいなかった成体までをも捕食することから、在来カメ類を減少させる主要因の1つと考えられています。

 

そこで、各外来哺乳類による在来カメ類への影響と対策について、ざっくりと紹介していきます。

 

 

アカギツネ問題

オーストラリアに侵入したアカギツネは様々な種類の在来カメ類を捕食し、個体数を減少させています。主に食害するのはカメ類の卵で、90%以上の産卵巣を食害していると報告されています。この食害により新たな幼体の加入が激減し、在来カメ類の個体群が高齢化しています。

 

アカギツネによる捕食ですが、カメ類の卵だけでなく、本来天敵が少ないために生存率が非常に高い成体までを捕食することから、オーストラリアにおけるカメ類の主要減少要因の1つとして問題視されています。

 

特に影響を受けているカメ類として、マックウォーリーマゲクビガメEmydura macquarii)、オーストラリアナガクビガメChelodina longicollis)、コウヒロナガクビガメChelodina expansa)、コウホソナガクビガメChelodina colliei)と様々な種類の在来種があげられています。

*学名は引用文献時のものを使用しています。

 

この食害問題ですが、アカギツネの食性解析(直接観察やDNA分析)により、実際にカメ類を捕食している証拠が示されています。ただし、カメ類が餌生物として検出されることは稀で、人間活動に由来するもの(果実や羊の死骸など)が大部分を占めているようです。つまり、人為的に供給される食物によりキツネの個体数が増加し、カメ類への潜在的な捕食圧が高まっている恐れがあるようです。

 

 

関連論文

 

 

イノシシ問題

オーストラリアでは、外来のイノシシによるチリメンナガクビガメChelodina rugosa)の食害が問題となっています。 

 

このチリメンナガクビガメですが、これまでアボリジニの季節的なタンパク源として利用されてきました。しかし、外来のイノシシの食害によって、ほぼ全ての生育段階のカメ類が捕食されてしまい、今までアボリジニによって行われてきた持続的な利用が困難になってしまっているそうです。このことから、局所個体群の絶滅も懸念されています。

 

そこで、個体群動態を予測する統計モデルを用いた解析が実施され、イノシシによる悪影響が定量的に評価されています。その結果によると、イノシシの食害がなく、幼体の生存率を高く保つことが出来れば、アボリジニによる持続可能な利用が出来ることが示唆されています。

 

このことから、アボリジニによるチリメンナガクビガメの持続可能な利用を継続する上で、イノシシを管理することが重要であると結論付けられています。

 

 

関連論文

 

 

 

アライグマ問題

日本国内の問題として、アライグマによるニホンイシガメMauremys japonica)の食害が指摘されています。これまで、ニホンイシガメの成体を捕食する主要な在来捕食者は存在しませんでしたが、アライグマが侵入した地域において、四肢を欠損した個体や食い殺された個体が数多く確認されるようになり、最も重大な減少要因の1つとして認識されるようになりました。

 

現在までに、ニホンイシガメを捕食した直接的な証拠はほとんどありませんが、カメラトラップや足跡などの痕跡調査より、アライグマによる捕食が強く疑われています。

 

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四肢を欠損したニホンイシガメ


分かっていることとして、ニホンイシガメの生息地において、アライグマがカメ類を捕まえて齧る様子が撮影されていたり、捕獲されたアライグマの胃腸内容物からカメ類の痕跡が見つかったと報告されています。

 

 

関連論文 

  • 小賀野大一・吉野英雄・八木幸市・田中一行・笠原孝夫.2015.房総半島の溜池に生息するニホンイシガメの危機的状況.爬虫両棲類学会報 2015(1):1–8.
  • 小菅康弘・小林頼太. 2015. アライグマによる淡水カメ類の危機 (特集 日本における淡水カメ類の保全と管理). 爬虫両棲類学会報 2015(2): 167-173.
  • Kagayama, S., Shimofuji, A., Ohtake, K., Shishikura, S., Ogano, D., and Hasegawa, M. 2021. Changes in Population Structure of the Freshwater Turtle Mauremys japonica Following the Invasion of Feral Raccoon Procyon lotor in the Southern Tip of the Boso Peninsula, Japan. Current Herpetology 40(1): 22-39.

 

 

今回紹介したように、外来哺乳類による在来カメ類への捕食を報告した事例は少なく、影響評価も十分だとは言えませんが、今後世界各地で様々なカメ類が食害される可能性もあります。

 

特に、今回紹介したアライグマは、原産地において在来カメ類の卵から成体までと幅広く捕食するハンターですし、今回紹介していない種として、カナダカワウソはあのカミツキガメでさえ簡単に捕食してしまいます。その他、タヌキがカメ類を捕食することも分かっており、これらの哺乳類が外来種として侵入してしまうと、在来のカメ類を捕食し、絶滅させてしまう可能性があります。

 

今後、多くの外来捕食者が世界各地に侵入し、在来カメ類を絶滅させてしまうことが無いよう、祈るばかりです。私は情報収集を継続し、日本国内でニホンイシガメをアライグマから守っていきたいです。

 

今回はこんな感じで。

ではでは。